新型コロナウイルスで今思う事 ‐ 日本で経済格差がおきている ‐
2022 年 3 月 2日
株式会社ドリームリンク
代表取締役 村上雅彦
2 年に及ぶコロナ禍の中で「地域による経済格差」がおこっております。その現状と感じている事を記してみたいと思います。
1、感染が拡大している地域の店が「黒字」、感染を抑え込んでいる地域の店が「赤字」という矛盾
コロナにより日本は「宣言地域(緊急事態宣言地域・まん延防止地域)」と「その他の地域」と大きく 2 つにわけられました。今、この 2 つの地域で経済格差がおこっております。「宣言地域」には時短要請や酒類提供自粛などの要請が発令されます。それを守ると「協力金」が支給されます。弊社の場合、この地域の店は休業や時短営業しているにも関わらず黒字となりました。一方「その他の地域」は休業要請が出ないので協力金はありませんので、少しでも売上をあげようと店を開けざるを得ません。しかし店は赤字となりました。休業して黒字、営業して赤字。感染が拡大している地域が黒字、感染を抑え込んでいる地域が赤字という考えられない現象が今、日本中でおこっております。
※弊社全 85 店舗の2つの地域の状況を表にしました。コロナ前の 2019 年は全地域黒字。コロナ禍が始まった 2020 年は全地域赤字転落。2021 年 8 月~9 月になって「時短協力金」が支給。それによって「宣言地域(緊急事態宣言地域・まん延防止地域)」が黒字に戻り、「その他の地域」は赤字のままとなっております。
※協力金が支給された 2021 年 8 月~9 月の数値を同じブランドで比較してみます。この現象は上記 2 店舗だけではなく2 つの地域で同じくおこっております。
2、なぜ矛盾がおこるのか?
10 世帯しかない集落があったとします。小さな集落ですので万が一コロナが出たらどこの家から出たのか直ぐにわかります。おそらくその家は集落の他の家から白い目で見られて、しばらくは誰も近づかなくなります。それが怖いので「我が家からコロナを出しては大変だ、絶対に外に出るな!」となります。結果、人が歩いていない町となり、この集落でコロナは発生しません。つまり病床使用率は低く抑えられます。病床使用率が低いのでこの集落は「宣言地域」にならずに「その他の地域」となります。「その他の地域」なので休業要請も出ません。当然協力金はありません。しかし店主は少しでも家賃を稼がなければならないので店を開けざるを得ません。誰も歩いていない町で店を開けても誰も入って来ないのです。これが感染を抑え込んでいる地方(田舎)の現実です。言い方を変えると人が「歩いていないから感染者が少ない」とも言えます。
3、矛盾に気づかず「歯を食いしばって頑張っている地方(田舎)の飲食店」
私たちの本社がある秋田市の飲食店仲間から次の様な話をよく聞きます。「赤字で大変だ。でも大変なのは自分だけではない。全国の飲食店が大変なのだから我慢しなければ」と。首都圏の経営者から次の様な話を聞いたと知人の経営者が話してくれました。「過去最高益だ」「マンションを買った」「外車を買った」「オミクロン暴れろ」「第 7 波大歓迎」と首都圏の経営者の集まりで聞いたそうです。その知人の経営者は「驚きとともに情けなくなりました」と最後に付け加えて話してくれました。まあこれは心無い一部の方の発言であると思います。しかし現実として感染を抑え込んでいる地方の飲食店は赤字でも歯を食いしばって頑張る。感染が拡大している地域の飲食店は休業しても利益が出るのです。正直者が馬鹿を見ることはあってはならないと思いました。
4、「飲食店には給付金があるからいいじゃないか」と言うご意見
「飲食店は給付金あるけど、生産者や小売店にはないから飲食店はまだ良い方だ」という類のご意見を賜る事があります。ごもっともです。でもよく考えてみてほしいのです。政府は「会食を控えなさい」と言っているのであって「食事を控えなさい」と言っているのではありません。つまり、お米やお野菜、お肉などの食材の消費量は減っていないはずなのです。食べる場所が変わっただけなのです。飲食店を中心に卸していた生産者や小売店は本当に困っております。しかし、消費は減っていないのですから売り先は必ずあるはずだと思います。一方、飲食店とは、駅前や繁華街に店を構え、人が入ってくるのを待つ商売です。「宣言地域」の様に時短要請が発令されると見合う売上が上がりません(これは 2021 年 8 月から協力金でカバーできるようになりました)。「その他の地域」の様に誰も歩いていない町では人が入って来ず売上が上がりません。しかし、家賃を払う為に、内装の借金を返す為に動かす事の出来ない店を開けるしか方法がないのが飲食店なのです。私たちの売場は飲食店なのです。「会食を控えろ」と 2 年間言われ続けて、誰も来なくなってしまった売場で、誰かが来た時の為に、食材を抱えて待つしかない商売なのです。
5、「だったら昼やれば?」と言うご意見
様々なご提言を頂く中で「夜が駄目ならば昼をやれば良いのでは?」と言うご意見も多く寄せられます。それに対して考えを述べたいと思います。元々お昼で商売をしている同業者がたくさんおります。その方々はそこで生きております。夜をメインにしていた酒場が「夜が大変だから」と一気に昼に雪崩れ込んだらどうなるでしょうか。限られた胃袋の争奪戦が始まり、やがて共倒れとなります。これは如何なものなのでしょうか・・・。私はよく社員に言っていることがあります。それは「現在は、コロナという爆弾が世界中に降り注いでいる「世界同時空襲」だと思う。空襲だから被爆してはいけない。まずは被爆しないように、我が身を守る為に、各々隠れたり、逃げたりしなければならない。しかし、自分だけ助かれば良いのではない。逃げている途中で怖くて動けない人がいたら「ここにいては危険ですよ、一緒に逃げましょう」と声をかける。被爆して怪我をしてしまった人がいたら安全な場所へ避難させてから逃げるなど逃げながら助け合う。世界中の人々がその様な考えと行動をとるべきだと思う。」という事です。
「夜の商売が大変だからと一気に昼に雪崩れ込む」という発想は自分の事だけを考えてしまうように感じ、どこか違う様な気がするのです。平時での「競合」はとても良い事だと思います、お互い競いあう事で成長します。しかし乱世では「競合」から「協力」と言葉を置き換えて助け合う事が大切ではないかと思うのです。
6、これは景気や経営手腕ではなく「災害」だと思います。
コロナ禍における経営悪化。これは災害だと思います。災害だとしたら被災した人々を国が守らなければなりません。コロナ禍における最大の経済的被害者は飲食店ではないでしょうか。コロナ禍での飲食店は「夜の街」という言葉から始まり、2 年に渡りターゲットとされ続けました。「会食が拡大を招いている」「アルコールを伴う飲食は控える様に」「コロナの急所は会食だ」と言う言葉の度に「会合自粛命令」が企業などで発令され大量のキャンセルが入り、店には閑古鳥が鳴き続けました。最近は陽性者の若年化が始まり学校でクラスターが発生しております。それに伴って「クラスターの発生が少なくなった飲食店に対して協力金を支払い続けることは不公平になるのではないか」と言う発言が分科会からあがったと聞いております。確かに飲食店でのクラスターは減ったのかもしれません。しかし「感染の急所は会食だ」「会食を控える事が拡大予防となる」「アルコールを伴う会食を控えるように」などと 2 年間ターゲットとされ続けて来た飲食店は、客離れが定着してしまい、波が落ち着いても以前の売上を得る事ができなくなってしまいました。嵐が去っても、嵐が飲食店に残した爪痕は残っているのです。
嵐が去った後から、雇用を守る為、家賃を払う為、税金を払う為に飲食店が借りた借金の返済が本格的に始まるのです。その事も是非お考え頂く事が出来ないものかと切に願います。特に宣言が発令されずに協力金の支給が無かった「その他の地域」の多くの仲間が苦しんでおります。「その他の地域」のほとんどは地方にあります。地方の飲食店は観光立国日本において地産ブランドを支えている大切な観光資源でもあります。コロナが過ぎ去って大切な地方の飲食店が町から消えていたということになっては取り返しがつきません。彼らは災害による被災者なのだと思います。災害だとしたら国が守るべきだと思うのです。
7、最後に
6 項目に渡って意見を書いて参りましたが、これは政府、霞が関、自治体、その関係者に対する批判ではございません。現在はコロナという世界同時空襲と書きました。そうだとすると今は戦渦の最中(さなか)と言えます。歴史を振り返ってみますと戦渦では様々な矛盾が起こります。後から「あの時こうするべきだった」などと検証されます。非常事態の最中(さなか)で完全な策を打つことはとても難しい事だと思うのです。当然、様々な不公平も起こります。これも仕方のない事だと思うのです。リーダーの方々は様々な情報、視点から命を守る為に、経済を守る為に最善と思われる策を決定していると思います。策が下された以上、それを批判していては和を乱してしまいますので、皆が従うべきだと思います。しかし従っている中で策に矛盾や欠陥などが見つかったら、見つけた人が声を
出して伝える事が大切だと思うのです。今回の件でも、首都圏の仲間が協力金によって黒字になることは悪い事ではございません。首都圏の多くの仲間も飲食店の苦しみの渦中にいる方がたくさんいると思います。しかし、本当に困っている「その他の地域」の仲間にも被災者として救済の目を向けて頂けないでしょうか。そして、いずれ訪れるアフターコロナにおいては「嵐が過ぎ去った後の飲食店に残された爪痕」にもしっかりと目を向けて頂けないものでしょうか。コロナは 2 つの要因で人の命を奪うと思います。1 つはウイルスによる病死、2 つ目は経済悪化による自殺です。「5 回の波には耐えたが第 6 波はきついな。今回はもたないかもしれない」と言う声が「その他の地域」の仲間から日増しに聞こえるようになりました。この問題は人の命に係わる問題です。彼らの悲鳴がどうか国に届き、ご検討頂ける事を願ってやみません。
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